代表 神垣忠幸
【聞き手:広報担当A.O】
アジハラベイスをはじめたきっかけ
アジハラベイスを始めようと決めたのは2022年秋ごろ。認知症の人と家族の会大阪府支部の代表をしていた時のことです。とある会議で若年性認知症の方のお子さんがヤングケアラーになっていることを知り、強く関心を持ちました。認知症の人と家族の会では、認知症の当事者とそれを支える家族という、比較的年齢の高い世代と専門職を主な対象としていましたが、認知症以外の病気や障害の介護家族、支援団体ともつながるべきではないかと考えていたからです。
しかし、当時は10代との接点がなく、具体的な支援方法がすぐには思い浮かびません。より広い視点から支援を考えたいと思い、講演会などを通じてヤングケアラーについて学んでいきました。
そして、若い人々とつながるためには、物理的に居場所があって、そこに集う人が必要だと強く思うようになりました。
こうして2023年にアジハラベイスの活動を開始。大阪を中心に活動するNPO団体「ふらいおん」の協力を得て無料塾を立ち上げます。インターネットでの募集を通じて高校生のボランティア講師が集まり、スクールソーシャルワーカーを通じて子どもの利用者も増え、現在に至ります。現在アジハラベイスには幼稚園の年中から中学生まで10人が定期的に通い、ボランティア講師として高校生15人、大人7人が登録しています。(2025年3月現在)
遊びが教えてくれること
アジハラベイスの無料塾は主に学習支援を目的としています。しかし、来てくれる子どもたちは中学生と小学生低学年以下のため、勉強だけでなく遊びの時間も多いのが実情です。
来ていただくボランティア講師には、勉強だけでなく、ゲームやお喋りを含めた支援であることを伝えていますが、それでも遊びの時間が比較的長いので、「遊ぶ時間が多くて大丈夫?」と高校生のボランティアに聞いたことがあります。すると、「子どもたちと過ごすのが楽しい」との答えがありました。今では学習支援だけでなく、遊ぶことも、子どもやボランティアの皆さんにとって大切な取り組みだと感じています。
また、自炊塾は当初、調理スキルの習得が目的でしたが、実際に始めると、調理や食事を通じて生まれる交流こそが大切だと感じました。自炊塾の時間でコミュニケーションをとり、子どもたちそれぞれの楽しさや悩みに気づくことができ、我々にとっても大きな学びになっています。
帰ってこられる場所
アジハラベイスに最も長く通っている子は約2年になります(2025年3月現在)。小学生ですが、自分より年下の子どもをリードして元気いっぱいに遊んでおり、成長を感じます。いずれ高学年になり、やがて来なくなる日も来るでしょう。でも、知っているお兄さんお姉さんがいる居場所があれば、ふと話したくなることがあるかもしれません。
また、先日は中学生の男の子が久しぶりに来ました。実は1年前にも少し通っていたお子さんです。小学校卒業後は姿を見せなくなっていましたが、突然「また来たい」と戻ってきてくれました。アジハラベイスが彼にとって必要な場所だと感じてもらえたことが、とても嬉しかったです。ここでスタッフと子どもが関わる時間は、人生の中では短いかもしれません。しかし、子どもたちが成長して悩みを抱えるようなことがあったとき、アジハラベイスのスタッフが、家族より話しやすい相手になることもあるかもしれません。この活動が3年後、4年後にどう成長していくのか、とても楽しみです。その頃には、この場所の本当の必要性が見えてくるのではと思っています。
アジハラベイスをみんなの居場所に
保護者の方々も「子どもがここに来るのを楽しみにしている」と言ってくださいます。小学生や保護者とのつながりはだんだんと広がってきていますが、地域の大人にとって、まだアジハラベイスの認知度が低く、近隣の大人のボランティアが不足していると感じます。今後気軽に関わってくれる方が増えることを願っています。自分が「当事者」かどうか、と考え始めると関わりにくくなってしまいますが、私は地域活動家の、小松理虔さんが著書のなかで使っている「共事者」という考えに共感しています。当事者だけが背負うのではなく、「一緒に考えよう」「そばにいよう」というゆるいつながりを大切にしたいのです。そうすることで、課題への理解が広がり、より多くの人が関われるようになります。息苦しい関係ではなく、みんなが自然に集まり、つながる場所―アジハラベイスがそんな居場所になればと思っています。